アフターコロナで劇場建築はどう変わるのか?

建築設計について

こんにちは。ケンチクシのケンです。

2021年5月現在、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて、客商売を行う多くの施設は未だに営業停止を余儀なくされています。そんな中でも劇場は多く観客を集めることで初めて興行収益が出せるビジネスモデルなだけに、アフターコロナでどう変わるかということは大きな課題だと思います。その一つは、リアルとバーチャルの融合であったり、アナログとデジタルの融合だと思います。

そもそも劇場の価値とは?

アフターコロナを考える前に、そもそも芝居や音楽を提供する人と鑑賞する人、それぞれにとって劇場の価値とは何なのでしょうか?

提供する人:演者や演奏者にとって晴れの場・観客のリアクションを生で体感できる場

 

舞台上でみんなの視線と期待を感じた時の緊張とモチベーションはすごいですよ。

講演に向けて多くの関係者と準備して来た作品を発表する晴れの場ですね。

 

鑑賞する人:鑑賞する人にとって非日常を体験する場・人間が創り出す芸術活動を生で鑑賞する場

アーティストの活動の場

劇場という活動の場を失った演劇や音楽に関わるアーティストの活動の場は、どこに移ったのででしょうか?

その一つには間違いなくネットビジネスの世界がありますよね。昨年コロナ禍に入り、アーティストが配信するYouTubeのコンテンツでの集客が一気に伸びています。それにうまく乗れた人とそうでない人で明暗が分かれていいますよね。

YouTubeのメリット

・好きな動画をいつでもどこでも楽しむことができる。

・全員が平等な環境で鑑賞することができる。

・お金がかからない。

YouTubeのデメリット

・鑑賞するまでの高揚感がない

・希少性や特別感が薄い

・生の感動がない

 

トラヴィス・スコット×フォートナイトのバーチャルコンサートは劇場のあり方を変えるのか?

コロナ禍の中、インターネットを使った活動として一番衝撃的だったのは、何と言ってもオンラインゲーム『フォートナイト』にて行われた人気ラッパー、トラヴィス・スコットのバーチャルコンサートは、まさに歴史的な転換点を感じる体験でした。

コンサートが開催された2020年4月当時で、登録ユーザー数が全世界で3億5千人とも言われています。予定された日時に、オンラインゲーム内に巨大なトラビススコットが空から現れ、ゲーム内に用意されているコンサートステージを踏みつぶすことから始まります。曲に合わせて変化する壮観な展開は、現実では絶対できない演出ですよね。そのほか特徴をまとめてみました。

①予定された日時にゲーム内で会場に向かうという行動が必要だったこと。

②そこには同じようにコンサートを鑑賞するゲームプレーヤーのアバターが集まっていたこと。

③バーチャルなトラヴィススコットをゲーム内の好きな場所で鑑賞できたこと。

④全世界で1200万人もの人が鑑賞していたこと。

⑤鑑賞するためのコストはほぼゼロだったこと。

③~⑤については、オンラインゲームで④の観客動員数や⑤の鑑賞者のコストはゼロだけど、わずか10分程度のコンサートで1年間の世界ツアー分の収益になったとメディアでよく取り上げられていると思います。

建築設計者として、興味深かかったのは①と②についてです。

リアルな劇場でのコンサートを考えると、チケットを購入してから開催される日時までは楽しみで、会場に向かう時も非日常の特別な時間ですよね。①はそれと同じようなワクワク感がありました。

また、劇場ではアーティストのパフォーマンスだけでなく、周りにいる他の観客と共に熱狂したり、酔いしれていることも一つの魅了だと思います。アバターとは言え、好きなように操作できることで没入感があり、周りの人達と一緒に踊ったり、飛び跳ねたりすることで一体感を感じることができました。

劇場のあり方はどう変わるのか?

ひとつの流れとして、中村獅童×初音ミクがコラボした歌舞伎の舞台があると思います。これはコロナ禍の前にもありましたし、実際私も京都南座で舞台を鑑賞させて頂きました。

これはリアルに実在する中村獅童とバーチャルな初音ミクが共演を果たしています。歴史ある日本の伝統芸能である動きをバーチャル世界の初音ミクが完璧なまでにこなします。そればかりかリアルではあり得ない演出に見るものを圧倒します。コロナ禍で無観客になった今は、舞台に留まらず客席までも表現の場として利用した演出が行われているようですね。

ここには、今後の劇場という実在する建築の行方を示唆ポイントは3つあると思います。

①劇場はバーチャルな世界に置き換わる。

フォートナイトの事例でもわかるようにバーチャルであっても人間が実体験と同等な没入感を感じるようになれば、もはや物理的な劇場の存在価値はなくな時代が来るのかも知れません。建築の設計を生業にしている人間からすると非常に寂しい話ですが、バーチャルな世界の建築設計をやってい行くのもあるのかなと思います。物理的な制約がないバーチャル世界で、物理的な表現しかないのは、創造の限界があるのか知れませんね。

②リアルとバーチャルが混在する演出が加速する!?

演劇や人形劇などの世界自体が虚構であるならば、バーチャルな世界も相性が良いのは当然ですね。ただし、あくまで中心にリアルな人がいるからこそ、面白さやすごみを感じることができるのだと思います。実在する劇場建築の舞台で欠かせないのは、舞台の上部に吹き抜けるフライタワー、主舞台と同じサイズを持った袖舞台や奥の舞台などは、緞帳の昇降や舞台の展開のために必要なスペースです。背景の描写が今以上にデジタル化が進むと、物理的なセットがいらなくなり、建築的な制約から解放される時が来るように思います。その時は、劇場という建築のボリュームがコンパクトになり、より映画の中に実在する人が存在しているような演出や、さらには観客自らがその映像の中に存在するようなことができる時代が来るように思います。その時には建築の概念も変わっているでしょうね。

③劇場という枠を超え、舞台芸術のステージはどこでも良い。

極論からすると劇場のあり方は、もっと多種多様になると思います。実在するもので言うと、オーストリアのボーデン湖で行われているブレゲンツ音楽祭なんかはとても面白いですね。

劇場建築では、舞台の演出やアレンジする舞台機構と共に、照明、音響の設備が必須です。それを屋外で行っているのがブレゲンツ音楽祭です。舞台自体は巨大な造作物ですし、音響も観客側に複数設置して距離による音の損失をカバーしているようです。

これがもしもデジタル技術を併用した演出をしたらもっと巨大で迫力ある舞台になるかも知れませんね。ひょっとしたら観客自体が舞台に入り込むことができたら、あるいは劇場のような場所に行かなくても疑似体験できることになるかも知れません。

まとめ

アフターコロナで劇場建築はどう変わるのか?と題しましたが、ここで挙げた話のほとんどはコロナと関係ないんじゃないかと思われかもしれません。しかしながら、人が集まってこそ採算性が上がりビジネスが成立するだけに、密を拒まざるを得ない社内の中で存在価値をなかなか見いだせないのではないでしょうか。これに関する社会的な試みとしては、2025年に開催される日本万国博覧会で行われようとしているように、大阪から遠い場所にいる人が、実在する人間をアバターと見たてて、会場を回ることができたら、劇場建築も大きく変わると思います。

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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